80年代終わりごろまで世の中の大企業は日本もアメリカも垂直統合型の企業でした。日本では三菱、NECはじめ巨大企業が企業群(グループ)をなしていましたしIBMをはじめとした世界の巨大企業もみな垂直統合型でありました。90年代にはいり垂直統合から水平分業に急速にシフトが進んでいきました。そんな中で生まれた新しい企業には
マイクロソフト(ソフトウエア)、 Qualcomm, nVidia(ファブレスチップメーカー)、TSMC (シリコンファウンダリ)、 Synopsys (EDAベンダー)、FOXCON(製造請負企業)など数々の現在の巨大企業があります。日本はこの波にうまく乗れなかった。結果として企業規模が小さくなりましたが同時に水平型企業の勃興も発生しなかった。
”Japan As Number One”という本まで出版された80年代の日本の姿を今は見ることができないのはこの転換期にうまく乗れなかったことが大きな要因だと言い切れると思う。自動車産業はそれでもこれまでのところ時代を生き延びてシェアをのばしてきていますがそれにも限りが見え始めた。
さて、今現在世界の巨大企業は?というと、ひところのGM, IBM、GE、NEC, 三菱を挙げる人は少数だと思われる。Apple, Microsoft, Google, Facebook, Alibaba, Tencentなどが先にあげられるのではないか? これらの企業に共通するのが題材とした、シリコン、ソフトウエアそしてデータ。 これら以外でもTeslaも立派にシリコン、ソフトエアそしてデータを企業戦略の中心にしている。
シリコンとはチップをさします。これらの会社すべてコアとなるチップは内製もしくは内製にむけて巨額投資をしている。投資額は数千億円になり日本の企業がもう太刀打ちできない規模となっている。これまでQualcomm等チップベンダーやIntelなどから調達してきたシリコンに戦略的を見出し自社開発に大きく舵をきったわけです。AppleはMACまで自社のCPUを搭載するとNewsに出ていたくらいです。
ソフトに関しては元々がソフトウエアの会社である場合が多いがAIを筆頭として開発の手を緩めない、開発はすべて自社で行い外注することはありません。
それに加え今はデータが新たな石油(金)になっている。データという油田を持つことがシリコン開発、ソフトウエア開発に必要な資金を提供しているわけです。またデータソフトウエア、シリコンの性能を左右するにまで至っている。
先ごろ”教養としての投資”という書籍を読みました。かなり良い本で若い人にはぜひとも読んでいただきたい。とてもよくポイントをついてあるのですが著者の意見としてFacebookはあまり価値がないという記述を見つけました。ソーシャルメディアのプラットフォームとして以前あった(?)ミクシーとの比較でそのように書いておられたわけですが、FBを単なるソーシャルメディアのプラットフォームとみるのは間違っていると思います。FBはデータとソフトウエアの会社でありその成果物のひとつとしてフェースブック, インスタグラム、ワッツアップがあるわけです。データを基にしたADはマーケティング、セールスとして非常に効率、効果が高いです。それがサービス(製品)であり利益を生み出しています。利益から得られたお金を今大量に投資している先はシリコンになります。データを処理するには有能なソフトウエアが必要でそのソフトウエアをいかに効率よく実行するかの鍵はシリコンにあるのです。この3つは互いに切っても切れない形で関連しており水平分業が成り立たなくなっているわけです。
資金源となるデータを日夜集め続けそれをソフトウエアでちょうど石油からガソリン、プラスチック等を生み出すように新たなサービス、新たなアプリを生み出し、そしてそのソフトウエアの実行環境(チップと言っておきます)を自分たちで作り上げようというのがこれら巨大企業の現在の戦略になります。
自動車にもその転機が訪れていると思います。そのもっともたるのがテスラです。テスラを単にEVの会社だと理解していると間違いになると思います。 かれらの本当のバリューは彼らが集め解析している膨大なデータだと思うのです。自動運転に向けてGOOGLEも含めてしのぎを挙げていますがテスラはすでに何10万台もの車が実際のオーナーが運転して市街地、高速道路を走っています。そして毎晩走行の記録がテスラ社のサーバーに吸い上げられそのデータが解析されソフトウエア、アルゴリズムの改良に使われ続けるわけです。こんなデータをもつ自動車会社、日本にはないですね。トヨタがどんなにがんばってもテスラの持つデータを持つまでにはもう何年もかかるのではないでしょうか? データに価値があるわけです。テスラはそのデータいずれ売り物にできるかもしれない。ライセンス料を取ってね。しかも車の場合、地域、国民性とうで自動化運転のアルゴリズム、設定等の細かなチューニングは必ずや必要となる。ハードが仮に作れたとしてもそれだけでは自動化運転には程遠い。ソフトが仮にできたとしてもそれでも飛行機やロケットとことなり人間社会というもっとも複雑で数式で表せない場面適合させるにはデータに基づく学習がぜひとも欠かせない。 テスラではそれに加え、戦略的に重要なシリコン内部で設計もしている。じつにシリコン、ソフトウエア、データ な会社です。
日本はこのシリコン、ソフトウエア、データというこれからの重要テクノロジーにまたしても乗り遅れようとしている。自動車産業も安泰ではなくなっている。エンジン開発はノウハウのかたまりで欧米と日本がほぼ独占してきたが電気、そしてデジタル化が新たな挑戦者を生み出した。中国、USAではそれらの挑戦者が既存の車会社にたいして優位に立とうとまでしている。
シリコン、ソフトウエア、 データ。
教養としての投資という本はとても良い本です。若い人はぜひとも早いうちに読んでおくとよいです。読むだけじゃなく実行も。
Amazon.co.jp: ビジネスエリートになるための 教養としての投資 eBook: 奥野 一成: Kindleストア